新線続々建設中!パリの公共交通路線網

2020-10-05

今回はパリに住んでいる人も、パリに観光に来る人もかなりの確率で使うと考えられるパリの公共交通機関(メトロ、バスなど)について解説したいと思います。パリの中心部はどこにでも、という表現がぴったりなくらいメトロの駅の数が多いので、パリのメトロを使いこなすことができればパリ市内の移動は簡単にできるようになります。メトロがメインの記事ですが、他の公共交通機関についても軽く解説します。

長くなりそうなので、今回は全体の概要とちょっとした歴史、そして今後開業する予定の新線の計画についての記事にして、その他の内容は今後書いていきます。

歴史の古いパリのメトロ

パリのメトロの歴史は古く、最初の路線は1900年に運行が開始されました。1863年にロンドンに最初の地下鉄ができ、ハンガリーのブダペストに1896年に設置された後、世界で3番目に作られた地下鉄らしいです。

Carte metro 1900
1900年の開業当初の路線図(RATP Archives)
現在の1号線はここから両端が少しずつ延伸されている
metro rame 1900
開業当初の木製車両(ParisSecretより)

1900年にはパリ万博が行われたほか、パリの東端にあるヴァンセンヌの森(Bois de Vincennes)でパリオリンピックも行われました。当時のパリの人口は270万人でしたが、7月19日の開業から12月までの半年の間で延べ1700万人がメトロを利用するなど、開業当初から多くの利用者に支えられていました。1901年に5500万人だった利用者数は第1次世界大戦前の1913年には8倍以上の4億6700万人となり、路線網の拡大に合わせて飛躍的に利用者が増えていきました(RATP)。

パリのメトロの特徴として、1939年までに現存するほとんどの路線が開業しており、早い段階から路線ネットワークが充実していたことがあげられます。第二次世界大戦直後の1949年には166kmの区間に270駅が営業しており、これは現存する303駅のうちの9割近くにあたります。

第二次世界大戦後は新線の開業こそ殆どありませんでしたが、多くの路線で延伸が行われ、現在ではパリ市の近郊の一部の自治体(Commune)にもメトロでアクセスすることができるようになっています(La Défense, Vincennesなど) 。そんな中の例外が1998年に開業した14号線です。開業当初から無人運転を行っている路線で、並行して走る1号線の混雑を緩和する目的で開業されました。この14番線の無人運転の成功を受け、2011年より1番線も全線で無人運転を行っています(営業中の路線を無人運転化した世界初の試み)。こちらの記事によれば無人運転化により平均時速が5kmほど向上し、1駅あたり20秒ほどの時間短縮ができるようになったとのことで、輸送力アップにつながっています。

現在ではメトロのみの路線総延長は220キロ、駅の数は303駅となっており、年間利用者数は15億人を超えています(2018年)。駅間の平均距離は約600mとかなり短いです。朝5時半から夜1時15分くらいまで運行していて、2~5分に1本の運行。利便性はかなり高いです。

ただし問題を迎えるのは夏。こちらのページによれば、冷房車が走ってるのは全14路線のうち1/2/5/9/14番線の5路線のみです。4/7/8/13番線はかろうじて換気装置を備えていますが冷却機能はないですし、3/6/10/12番線に至っては換気装置すら備え付けられておらず、窓を開けるしかありません。近年の猛暑に鑑みると冷房がない車両というのは少し不安が残るので、夏に利用される方は注意してください。

rame ligne 6 metro paris
地上区間を走るメトロ6番線(Wikipedia)

高速・大量輸送手段としてのRER

一方、1960年代後半からは混雑の激しかった一部のメトロの路線の混雑緩和、及び人口増加の著しかった郊外へのアクセス向上を目的とし、RER(Réseau express régional d'Île-de-France、イル=ド=フランス地域圏急行鉄道網)の整備が行われました。メトロと比べて駅間の平均距離は3倍程度となっている他、車両も大型となっており、より大勢の人をより早く輸送する手段として建設されています。こちらの建設が優先的に行われたためにメトロの新線開業はほとんどなかったとも考えられるでしょう。

RERはAからEまで5つの路線があり、概ね建設順にアルファベットが振られています。路線の運営はRATP(パリ交通公団)とSNCF(フランス国鉄)の2社が行っており、A線とB線がRATP、C~E線(及びA/B線の一部区間)がSNCFです。総じてSNCFの運行している路線は古い車両が多かったり、本数が少なかったりとやや不便な点が多いです。

ディズニーランドやアウトレットにつながるA線、シャルル・ド・ゴール空港へのアクセス路線となっているB線、ヴェルサイユ宮殿に行くときに便利なC線あたりが日本人にとって利用頻度が高い路線だと思われますが、A線のパリより東の区間、及びB線のパリより北側の区間はやや治安が悪く、車内に物乞いがいることも日常茶飯事です。驚く方も多いかもしれません。

冷房事情については、ほぼ全列車が冷房車のA線、3分の1から半数が冷房車のB/C線、冷房車がほぼないD/E線とかなり格差があります。

RER A rame
郊外の高架区間を走るRER A (Wikipedia)
A線には2階建て車両が導入されている

近年建設ラッシュのトラム

また、2000年以降は環境意識の高まりなどの背景もあり、郊外を中心にトラムの新線開業も相次いでいます。現時点ですでに9路線(T1, T2, T3a, T3b, T4, T5, T6, T7, T8, T11)が開業しています。ほとんどの路線がパリ郊外の環状線となっているか、パリの郊外からさらに遠くを結ぶ路線となっており、沿線住民でない限りはなかなか利用する機会が少ない移動手段だと思います。

新しいということもあり、ほぼすべての車両が冷房車です。

tram 3 a paris
Cité UniversitaireでのTram T3a (Wikipedia)

路線網のきめ細かさが際立つバス

最後にバスも軽く紹介します。パリのバスは路線網も複雑で、お目当ての路線を見つけるのがなかなか難しい上、車内でのアナウンスも正確でない場合があるなど、旅行者には少し使いにくい移動手段かもしれないですが、メトロなどでは乗り換えが必要な経路に乗り換え不要でアクセスできる場合なども多く、メトロの1日券を持っていれば追加の運賃を支払う必要もないため、場合によっては非常に便利な移動手段となります。Google Mapの経路検索でバス利用が勧められた場合などには積極的に活用するとよいでしょう。

ただし、全体の94%の車両に冷房が備え付けられておらず、夏場は非常に暑いです。気をつけましょう。

bus paris
RATPが運行しているハイブリッドバス(Wikipedia)
plan metro paris
現在のパリの路線図。地下鉄の他にRERや郊外のトラムなども掲載されている(RATP)。
plan bus paris
パリのバス路線図。網の目のように路線網が発達している(RATP)

今後開業が予定されている新線など

地下鉄の延伸や無人運転化

パリの地下鉄は一部の路線に混雑が集中しており、特に1/4/13番線の混雑が激しくなっています。このため、4番線や13番線にも1番船同様自動運転化計画があります。

saturation metor paris
パリの地下鉄混雑度マップ

また、4番線(東向き)や11番線(東向き)、12番線(北向き)の延伸計画があります。とはいえ、これらは日本人が使う機会はあまりない区間だと思います。

Grand Paris Express

現在の主要プロジェクトとして位置づけられているGrand Paris Express2030年までに15~18番線の4路線の建設が計画されている他、14番線の延伸もプロジェクトに含まれます。主にパリ郊外のアクセスを改善するプロジェクトですが、空港アクセスも大幅に改善される見込みとなっていますし、オルリー空港とヴェルサイユが乗換なしで行き来できるようになる予定です。このため、旅行者にとっても非常に価値のあるプロジェクトです。

これらの路線は運行開始のタイミングから全て自動運転が行われる予定です。このプロジェクトで建設される新線の総延長は200km以上で、68の新駅が開業することとなっており、メトロのネットワークの路線総延長はほぼ2倍になります。

carte GPE
新しく建設される路線の路線図(Société du Grand Paris)

トラムやBRTの新線建設

郊外ではGrand Paris Expressの他にも新線建設が多数行われています。トラムはT9, T10, T12, T13の4路線が建設中ですし、Bus Tzenと呼ばれるBRTも3路線が工事中で1路線が計画中となっています。これらは今年注に開業予定だったものも多いのですが、COVID-19に伴う外出制限期間中は工事が休止していたため、開業が延期されるものと思われます。

Tram t9
トラムT9の建設現場

CDGExpress

最後にCDGExpressについて。空港紹介の記事でも延べたのでこちらでは詳細は省きますが、シャルル・ド・ゴール空港とパリ市内のアクセスを向上させるべくあたらしいサービスが始まる予定です。