ヨーロッパ留学って大変…?留学生がきつさを解説!~ENPCのスケジュール~
今日は、2019-2020のENPCを事例にグランゼコールのスケジュールのお話をしていきたいと思います。このお話の前提となるグランゼコールについては、以下の記事を参考にしてください。
年間スケジュールについて
フランスは他の欧米圏の大学の例にもれず、9月に新年度が始まります。9月から1月が前期、2月から5月が後期という2期制を採用しています。
ここまではヨーロッパ圏の他の大学とほとんど同じだと思いますが、ここからは1年間ENPCに通って個人的に面白いなと思った年間スケジュールの変わったポイント(日本人留学生目線)について紹介させていただきます。
バカンス
まずはバカンスについて。フランス人といえばバカンス、というくらい休みを取るというイメージがあるかもしれませんが、これはグランゼコールの場合も例外ではありません。9月から5月までの間、1ヶ月程度の長い休みなどはあまりないのですが、2ヶ月に1回1週間程度の休みがあります。今年の場合は « Vacances de Toussaint (諸聖人の日の休暇、10月最終週) » « Vacances de Noël (クリスマス休暇、12月末から1月初週にかけて2週間) » « Vacances d'hiver (冬の休暇、スキー休暇とも呼ばれる、2月中旬) » « Vacances de Pâques (イースター休暇、4月中旬)» の4つがありました。イースターが移動祝日なため、イースター休暇とスキー休暇は年によってタイミングが異なるようです。
バカンスの過ごし方は人それぞれです。留学生はヨーロッパ各地や北アフリカなどの旅行にでかけている人が多かったですが、フランス人はどこにも行かなかったり、親元に帰省するという人も多いようです。課題が溜まっていたり、学期末試験が控えている場合、勉強時間を確保する学生もいるようです。ただし、今年のイースター休暇はみんな自宅にこもらざるを得ませんでした。料理や掃除、Netflixなどが捗るバカンスとなりました。

これらのバカンスがある分、学期と学期の間の休みはなく、前期の最終週が終わったらすぐに後期が始まるので、非常に忙しかったです。
Semaine d'ouverture (オープニングウィーク)
続いて、 « Semaine d'ouverture » です。「オープニングウィーク」に相当し、各学期の最初の1週間のことを指します。この期間は通常の授業はなく、学科ごとに集中講義が開講されています。外部講師を招いたり、学外で授業を受けたりと通常の時間割に組み込むのは難しいプログラムが組まれます。 2020年の2月のオープニングウィークでは駅や交通の計画についての授業のためにアムステルダムに行きました。
日本の大学と同様、普段は空きコマなどもありますが、オープニングウィークは朝から晩までみっちりと授業が詰まっていることも多く、特に学外に移動する場合は普段以上に朝が早くなるため、体力的に中々きつかったことを覚えています。アムステルダムに行った際は、月曜と火曜日はパリで授業を受け火曜日の夜に特急列車(3時間半ほど)でアムステルダムに移動、その後水曜日の朝イチから講演を聞くというビジネスマンのような弾丸スケジュールだったため、アムステルダムの観光をしている余裕もほとんどありませんでした。
Voyage de département (学科旅行)
こちらは2年目の頭、それぞれの学科に割り振られた学生が参加する旅行です。年によって行き先が異なることも多く、行った先ではいくつかセミナーを受けたり、工場や工事現場を見学したりすることもありますが、それなりに自由時間もあり、観光を楽しむこともできます。僕の場合は9月の3週目にストラスブールに行きました。宿が非常に不便なところだった上、5人の相部屋だったので中々ストレスが溜まる部分もありましたが、学科の同級生と仲良く慣れる機会だったと思います。先程のアムステルダムの例とは違い、学科旅行ではかなり時間に余裕があったので、ストラスブールの旧市街やEU議会、コルマールという周辺の街の観光もできました。非常に楽しかったです。

なお、ストラスブールに行くのにはOuigoという廉価版の新幹線を使ったのですが、前年度までは飛行機を使ってより遠くまで行くこともあったようです(アテネ、リスボン、マラケシュ、etc.)。ただし、過去の学生が環境保護の観点から飛行機の利用に反対したとのことで、今年度から飛行機を利用しない方針に変更されました。日本の大学で、学生の動きから飛行機の利用を取りやめるような例はあまりないと思うので、やや意外でした。ストラスブールには行ったことがなかったのでそこまで気にしていないですけど。
Journée pédagogique
こちらは、直訳すると「教育的な日」ということになり、一見よくわからないのですが、補講日に相当します。祝日などのため、各曜日ごとに授業日数が異なることが多いため、その調整をするために使われています。何らかの事情で休講となった場合の補講が行われることが多いですが、それ以外にも外部講師を招いたセミナーが行われたり、図書館の司書の方を招いた資料検索セミナーが行われたりすることもあります。また、卒業に際して必要なTOEICやTCF(フランス語の試験)を受けることもあります。
時間割の紹介
さて、年間スケジュールの紹介が終わったので、次は週間スケジュールを説明したいと思います。時間割の紹介をしていきます。
ECTSとは?
時間割を理解するのに必須なECTSについてまずはご紹介します。ENPCでも日本の大学と同様単位制が採用されていますが、ENPCでは他のEU圏内の教育機関同様 « ECTS (European Credit Transfer System,ヨーロッパ単位互換評価制度) » という制度が採用されており、1 ECTSというのが日本でいうところの1単位になります。日本の場合、単位数は授業時間数を元に決められていますが、ECTSの場合は授業外の時間も含んだ学習時間数が計算において考慮されているようです。このため、プロジェクトや演習などと呼ばれる、授業時間外に時間を割くことが多分に要求される科目の場合は同じ授業時間の他の科目よりも取得できるECTSの数が多くなります。一方、語学の授業は相対的に取得できるECTSの数が少なくなります。
概ね1ECTSの獲得に25-30時間の学習が必要とされているようですが、この基準は国ごとに多少違うようです。ヨーロッパの多くの大学の場合、1学年の間に60ECTSの取得が要求されるので、1年間に1500~1800時間、平均して毎日4~5時間くらいは勉強しなくてはいけないということになります。もちろん、長期休暇の間はあまり勉強をしない場合も多いので、大学がある期間は授業時間も含めると1日8時間位は勉強しているということになると思います。ENPCもこの例に漏れず、各学年で60ECTS取ることが要求されます。
授業のカテゴリー
続いて、授業のカテゴリーについてです。60単位が必要と書きましたが、何でもかんでも60単位取ればいいという形ではなく、その中でどのような授業を取らなくてはいけないかがある程度決められています。
ENPCの場合、« Académiques (アカデミック) » « Langues (語学) » « Sport (スポーツ) » « Stage (インターンシップ) » « Accompagnement et Orientation professionnelle (インターンシップの準備講座) » « Projet de Fin d'Études (修了プロジェクト) » の6つのカテゴリーがあります。
ENPCのカリキュラム
ここからはENPCの実際のカリキュラムを紹介していきます。2017年以降に入学した学生の場合、3年間で取得すべき単位は以下のようになっています。
1年目 | 2年目 | 3年目 | 合計 | |
アカデミック | 50.5 | 48.5 | 25.5 | 124.5 |
語学 | 7.5 | 7.5 | 4.5 | 19.5 |
スポーツ | 1 | 1 | - | 2 |
インターン | 0.5 | 2.5 | - | 3 |
インターン準備 | 0.5 | 0.5 | - | 1 |
修了プロジェクト | - | - | 30 | 30 |
以下ではそれぞれのカテゴリーについて解説していきます。
アカデミック
一番の根幹となる部分はアカデミックですが、この中でも要求される単位数はさらに細分化されています。ENPCの特徴の1つとして、エンジニアを養成する学校であるにもかかわらず法律や経済、簿記、統計などエンジニアリングに直接関連がない科目も必修科目に含まれており、正規の学生の場合はどの学科に進んだ場合でもこれらを学ぶ必要があることが挙げられます。また、2年目の間に « Sciences Humaines et Sociales (人文社会科学) » の授業を1コマ(3 ECTS)取ることが求められます。学科の研修旅行などの単位もこのアカデミックのカテゴリーに含まれます。
その他の科目はそれぞれの学科で定められている必修科目、及びそれ以外で必要単位数を満たすのに必要な分の選択科目を取ることとなります。選択科目は自分の学科以外の授業も取ることができます。
学年ごとの傾向
各学年における傾向として、1年目はまだ学科に分かれていないということもあり、どの学科に進む場合でも必要となる知識を学ぶ事が多いようです。フランス人の友人によると、数学や物理、情報、プログラミングなどの授業でほとんど埋められているとのことでした。
このため、専門的な内容を学ぶのは2年目に入ってからになります。僕の場合は都市計画を専攻しているので、都市計画法や都市計画のファイナンス、都市計画のプロジェクト演習、GISを使った分析の演習などが必修科目としてあります。選択科目は2-3コマ程度しかありません。
3年目は必修科目が比較的少ないようで、履修の自由度も高くなります。他の学科の生徒が2年目で履修する科目を履修することもできますし、自分の分野の専門性をより高めるべくより高度な内容のプロジェクト演習に参加することもできます。
語学
語学は各学年で必要な単位数の約1割です。2つの言語の授業を履修する必要があり、留学生の場合は原則英語とフランス語を半分ずつ履修する必要があります。フランス人の場合、英語以外の科目の選択肢はそれなりに多く、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ブラジルポルトガル語、中国語、日本語、アラビア語、ロシア語が用意されているようです。
授業の特徴
英語の授業はかなりバラエティーに富んでおり、会話の授業やライティングの授業といった英語力を上げることにフォーカスしたものから、英語ディベートや模擬国連などのより発展的な内容の授業もあります。映画や歴史、芸術などを対象とした授業なども用意されており、選択肢は非常に多いですが、授業選択は先着順のため、履修登録開始のタイミングではサーバーに中々つながらず、つながった頃には選びたかった授業がすでに取れなくなっているということも多いです。1学期目はこのことを知らず、申込み登録が始まった5時間後くらいにアクセスしたのですが、人気の授業はほとんど埋まっており残り物の授業を取ることとなってしまいました。とはいえ、この時の授業の先生は非常にいい人だったので救われました。
フランス語の授業も概ね似た感じですが、留学生は原則ライティングの授業を取ることとなっています。1クラス10人程度で先生の面倒見も非常によく、フランス語に関する質問であれば何でも答えてくれる先生がほとんどでした。
ユニークな単位認定の仕組み
また、ENPCでは « TANDEM » と呼ばれる言語交換の仕組みがあります。自分の母国語を1時間教え、その代わりに相手の母国語を1時間教えてもらうというシステムで単位を取得することができます。
各自自分の目標を設定し、それに向けての自習をサポートしてもらうといった形になっており、僕は発音とディスカッションのスキルを上げるべく毎週1時間レッスンに付き合ってもらっています。TANDEMをやることを選択した場合、学期末にチューターの先生と語学の責任者の先生の前でどのようにTANDEMを進めてきたか、学んだこと、難しかったことは何かなどについてプレゼンをし、そのプレゼンと提出物の評価で成績が決まるというシステムになっています。
卒業に必要な語学力
こちらは必要単位とは異なりますが、卒業にあたって英語とフランス語の2言語がCEFR B2レベルであることの証明が必要となります。英語についてはTOEIC765点以上あるいは同等の成績を証明するTOEFLやIELTS、ケンブリッジ英検などのスコアが、フランス語についてはDELFやTCFと呼ばれる世界中で通用するフランス語能力試験のスコアが必要になります。入学時点で取得していない場合、TOIECやTCFをENPCで受験できるようになっています。
スポーツ
1年目と2年目の学生は週1回1時間半のスポーツの授業を受けることになっています。種目の選択肢は結構多く、今年はボート、バドミントン、バスケットボール、ボクシング、ダンス、ボルダリング、サッカー、ハンドボール、筋トレ、水泳、ラグビー、テニス、卓球、バレーボールの中から1つ選ぶことができました。
僕はサッカーを選びましたが、必修の授業でも日本の体育の授業よりもかなり激しいです。ラダーなどを使ったフットワークのトレーニングから始まり、ドリブルやパスの練習、ポジショニングの練習、シュート練習などを行い、最後に試合を行うという部活のような練習となっており、しばらく運動不足だったこともあって毎週バテバテになってました(外出制限期間中は授業は行われていません)。雨や雪、時には雹も降ったりして非常に寒かったです。
また、この必修の授業の他に有志で大学代表のチームに参加することもできます。各グランゼコールにこのような代表チームがあるようで、グランゼコール対抗のトーナメントも行われています。
インターン・インターン準備
インターンは主に夏休みにすることになっています。1年目と2年目でインターンの単位数が異なりますが、これは内容がかなり異なったものとなっていることに由来します。1年目はスーパーや近所の商店、工事現場などで1ヶ月程度の就業体験をすることとなっているようで、日本でアルバイトをするのと同じようなイメージです。インターン先に指定はほとんどありません。
一方、2年目は自分の専門分野に関連するインターンシップを行うこととなっています。研究インターンも認められていますし、企業でインターンを行うこともできます。短期・長期の2種類を選ぶことができますが、短期でも12週間以上、長期の場合は43週間以上のインターンシップを行うこととなっており、日本で一般的なインターンシップとはかなり性質の異なるものとなっています。基本的には有給で行われており、試用期間のようなものに該当していると考えられます。このインターンで成果をあげることができた場合、卒業後の採用オファーが来ることもあるようです。
長期のインターンを選ぶ場合は、2年目と3年目の間で1年休学を挟むことになり、その分卒業が1年遅れることとなります。日本だと休学がネガティブに捉えられることも未だに多い印象を受けますが、フランスではインターンを行うための休学は非常に一般的で、多くのフランス人の学生が長期インターンを選択しているようです。
インターン準備講座ではインターンに向けた心構えなどについての講義が行われます。過去の先輩の体験談などを元に、インターンを探す上で必要な心構え、トラブルに遭遇した場合の対処法などを学生同士でディスカッションし、最後に先生の前で発表するという形で行われました。
修了プロジェクト
修了プロジェクトは3年目の後半の学期で行うことになっています。先程上で述べたようなインターンとほぼ同内容となっており、企業や研究室でのインターンをするパターンが多いようですが、この他にもオプションが用意されており、自分で起業した場合にはその事業が修了プロジェクトの代替として認定されることもあるようです。大学の卒業論文に相当するものと考えられますが、グランゼコールは研究施設ではないので、様々な形で単位を取得することができるようです。
実際の時間割
これらを全て踏まえ、2年目の修了要件を満たすように履修を組みました。実際の僕の時間割はこんな感じになっています。

この他、上記のオープニングウィークや学科旅行、インターンなどの単位も含めて必要単位をやや上回るくらいの授業のとり方です。前期の月曜日の最後の必修は学期の前半だけ、前期の水曜日午後の必修と木曜日午前の必修は学期の後半だけしか開講されなかったので、前期は時間割の見た目よりは授業が少なかったです。
授業時間の長さはバラバラ
このようにしてみると、曜日ごとに授業の開始・終了時間にずれがあることがわかります。ある曜日は11時15分に授業が終わるのに別の曜日は11時45分に授業が終わるなどするため、慣れるまでは非常に戸惑いました。
月曜日と水曜日はほぼ1日中専門科目の授業に当てられており、昼の1時間半のコマで語学の授業が開講されています。一方、火曜日と木曜日は午前中のみが専門科目の授業に当てられており、午後は全てスポーツと語学の授業に割り当てられています。金曜日は午前に人文社会科学系の科目が開講されており、午後は全学科共通の必修科目が開講されています。
僕の時間割を見ると、週の半分くらいが授業で埋まっているという形になっています。COVID-19による外出制限が出ている現在も、スポーツ以外の授業は全てオンラインで授業が実施されており、それなりに忙しい日々を送っています。授業時間外にも復習や課題でかなり時間を取られるため、暇な時間が多いという感覚はあまりありません。
授業時間外での学習時間は多い
日本の大学にいたときもこれと同じくらいかそれ以上に時間割が詰まっていたこともありましたが、日本の大学の授業に比べて授業時間外での学習時間をしっかりと確保しないといけない印象を受けました。フランス語での授業のため、授業内容を復習するのに日本にいた頃よりも時間がかかるという側面もありますが、1科目あたりの課題量も純粋に多く、それなりに勉強量を確保することが求められます。
しかし、日本にいる頃はサークル活動をしたりアルバイトをしたりと他にもやることが多かったのですが、ENPCではどちらもやっていないので、学期末の期間を除けばそれなりに時間に余裕があります。外出制限が始まるまでは、週末に観光に行くといったことも可能でした。
以上、ENPCでの学事歴や時間割の紹介でした。今後フランスやヨーロッパでの留学をしたいという方の参考になればうれしいです!