【ヨーロッパ】シェンゲン協定の危うさ~今後のEUの先行きは…?~

2020-10-05

今日のフランスでのコロナウイルスの死者は「たった」357人だったというニュースを見ました。ここ数日、フランス国内では連日500人前後が亡くなられていたのでそれに比べるといくらかマシな状況ではありますが、それでも外出制限からまもなく3週間が経つにも関わらず事態が収拾する目処は立ちません。

今日は最高気温22度、寮の前では桜も散り始めており、春の陽気でピクニック日和でしたが、そんなことをしている人はいませんでした。

シェンゲン協定について

さて、皆さんの中には、ヨーロッパを旅行された際に国境を超えてもパスポートをチェックされなかった経験がある方がいらっしゃるかもいれません。初めての方はびっくりしたかもしれないですが、これはヨーロッパではごく普通に見られることです。これを理解するためには、シェンゲン協定についてきっちりと理解しておく必要があります。

そもそもシェンゲン、というのはルクセンブルクにある地名のようで、この協定はフランス、ベルギー、ルクセンブルク、オランダ、西ドイツの5カ国が1985年にシェンゲン付近の3国国境地点に投錨していたプランセス・マリー=アストリ号において署名した文書であることからこのような名前がついたようです。ちなみに、3国というのはフランス、(西)ドイツ、ルクセンブルクのことを指します。

概要をざっくりと説明すると、国家間の障壁をなくして「ひと、もの、かね」の自由な移動を目指すため、協定参加国の間での国境検査を廃止しましょうということを決めた協定です。欧州連合(EU)、及びその前身の欧州経済共同体の加盟国内で足並みが揃っていなかったため、欧州連合の枠組みの外で作られました。このような経緯からか、欧州連合の非加盟国でもシェンゲン協定に加盟している国というのはいくつかあります(後述)。

しかし、アムステルダム条約というその後に作られた条約によってこのシェンゲン協定はEUの枠組みに取り込まれたようで、現在はシェンゲン協定に関する議論はEUの枠組みの中で行われるようです。つまり、EU非加盟国でシェンゲン協定に加盟している国は、シェンゲン協定に関する議論に参加する機会がほとんどなくなってしまったようです。

現在のシェンゲン協定加盟国

現在は以下に示す26の国が加盟しており、これらの国を行き来する場合はパスポートチェックは原則ありません。一方、これらの国からそれ以外の国に行く場合、ないしその逆の場合にはシェンゲン協定加盟国の国のうちの最後の滞在国(ないし最初の滞在国)でパスポートチェックを受けることになります。※がついているのはEU非加盟国です。

  • ベルギー
  • ドイツ
  • フランス
  • ルクセンブルク
  • オランダ
  • スペイン
  • ポルトガル
  • イタリア
  • オーストリア
  • ギリシャ
  • デンマーク
  • フィンランド
  • アイスランド(※)
  • ノルウェー(※)
  • スウェーデン
  • チェコ
  • エストニア
  • ハンガリー
  • リトアニア
  • ラトビア
  • マルタ
  • ポーランド
  • スロバキア
  • スロベニア
  • スイス(※)
  • リヒテンシュタイン(※)

また、この他にバチカン市国やサンマリノ、モナコはそれぞれイタリアやフランスに内包されている形なので、実質的にシェンゲン圏に含まれると考えることができます。アンドラもスペインとフランスとのみ国境を接しているので同様です。

現在EU加盟国は27ありますが、このうちキプロス、クロアチア、アイルランド、ルーマニア、ブルガリアではまだシェンゲン協定が施行されていません。この内、アイルランド以外の4カ国はすでに署名をしているようですが、何らかの障壁があり施行に至っていないというのが現状のようです。なお、EUをつい先日脱退したイギリスもシェンゲン協定には加盟していません。アイルランドとイギリスの両国が加盟していないことには歴史的背景が大きく関係しているようです。

シェンゲン圏内ではパスポートチェックがないため、パスポートを所持していなくても国境を超えることができてしまいます。実際、EU市民にはパスポートの他に写真付きの身分証明書が1人1枚交付されているようで、フランス国内線、シェンゲン協定加盟国間の国際線の飛行機に乗る際にはこちらの身分証明書を提示している方がほとんどです。一方、外国人の場合は身分証明書としてパスポートを求められることがほとんどです。

鉄道で移動する場合は身分証明証の提示は求められないことも多いです。

日本からのビザなし入国

日本国籍者の場合、シェンゲン協定加盟国では以下の条件をすべて満たせばビザ無しで入国することができます(注意:現在はCOVID-19の感染拡大に伴い、EU圏外からの入国は原則禁止されています)。

渡航目的観光、商用、外交・公用
滞在期間あらゆる連続する180日間について90日以内まで
パスポートの残存期間出国予定時に3ヶ月以上
パスポートの未使用欄見開き2ページ以上
その他必要書類出国用の航空券が必要

滞在期間の項目が少しややこしいかと思いますが、入国日から数えて過去180日以内に90日以上滞在していないこと、入国日の次の日から数えて過去180日以内に90日以上滞在していないこと…というように出国予定日まですべて条件を満たせばOK、ということになります。日本から旅行や出張などで来られる場合には基本的にビザは不要という認識でOKです。

ビザが必要な場合

一方、フランスで仕事を探す場合、3ヶ月以上連続で滞在する場合などはビザを取る必要があります。特に就労ビザについては、フランスで就労ビザを取ったからと言って他のシェンゲン協定加盟国でも働ける、というわけではないようです。僕は今回長期の留学なので、長期留学用の学生ビザを取得しました。それについては後日詳しく書きたいと思います。

また、例えば中国国籍を保有している方などはこのようなビザ免除規定はないようです。

新型コロナウイルスに伴うシェンゲン協定の扱い 

さて、今回この話を延々と書いてきたのはCOVID-19(新型コロナウイルス)の流行拡大に伴うシェンゲン協定の扱いについて書きたかったからです。

原則として国境審査を撤廃していた各国ですが、国境審査が撤廃される前の設備などは残っている場所がほとんどのため、その気になればそれらの設備を用いて国境審査を再開することができるようです。

そのような状況が来るとは思っていなかったのですが、今回のCOVID-19の流行に伴いそのような事態が発生しました。3月中旬頃、ヨーロッパのうち特にイタリア、スペイン、フランスなどでCOVID-19が流行し、感染者が増加していたことを受け、スロベニアやチェコなど、主に東欧・北欧の国々がシェンゲン協定加盟国に対しても国境を閉鎖することを発表しました。シェンゲン協定には例外規定が用意されているようで、そのようなときには国境審査を再開できるというのが含まれていたようです(戦争などを考慮したものなのでしょうか)。

フランスのマクロン大統領はこれら各国の対応を受け、当初はこのような判断を「誤った判断」とし、かなり感染者数が増えていたイタリアとの国境もしばらくは封鎖しないでいました。状況が刻々と変わる中、各国の足並みが揃わずにバラバラな対応をしていたというわけです。

ライン川(ストラスブール)
フランス・ドイツ国境となっているライン川(ストラスブールにて)。平時は徒歩や車、トラムなどで簡単に国境を渡れる場所が多いので、今回のような急激な国境封鎖の場合にはこのような陸路国境をどのように封鎖していたのか気になります。

しかし、最終的にヨーロッパの多くの国が外出制限(フランス語ではconfinementと呼ばれています)を発動し、実質的に国境を超えた移動はできない事態となりました。各国ともテレワークができない仕事上の移動では移動ができるようで、おそらく越境労働者は国境を超えることができるとは思いますが、実際に自分の目で見たわけではないので実態は不明です…。

ただ、今回の感染拡大を通じて国家間の取り決めは非常事態にいとも簡単にひっくり返される可能性があるということがわかりました。流行が収まった後、果たしてEUはどこに向かっていくのか。今回の事態を契機に欧州統合の実現は難しくなるのか。今後ゆっくり見極めていく必要がありそうです。